【STORY】 茅ヶ崎への想いと自分の本心と向き合い、生まれた「クーカイ」。
(前回の記事はこちら→料理もお店もスタイルは変えない。でも、いつも新しい。あれこれの多国籍創作料理 「arecole cuisine クーカイ」)
独立への想いと努力、そして決断へ
マスターの三橋裕三さんは、茅ヶ崎の鮮魚店の三男。「魚のことは大概知っていたし、料理を食べるのも作るのも好きだった」。それがきっかけで、10代から地元の老舗の会席料理屋で板前修業を始めた。いつかは独立を考えていた裕三氏は「料理の基本は分かったが、板前だと厨房に入りっきりで、外のこともお客様のことも知らない世界のままだ」とその若さで気づき、20代前半で茅ヶ崎の無国籍料理のお店に料理開発責任者として入社するチャンスを得る。当時はまだ珍しいカウンターで接客しながらの調理を経験し、スタッフのマネジメントや飲食店の経営なども学び、独立へ一歩ずつ着実に歩んでいた。
そんなやりがいのあるポジションでいた矢先に、実家の鮮魚店の跡継ぎ問題に直面する。二人の兄はすでに独立していたため自分しか跡継ぎがいない状態であったため、裕三氏は独立を目指しながらも、腹をくくって跡を継ぐ決心をしていた。だが、裕三氏の独立は両親の夢でもあり、裕三氏の心の内を汲んでいた両親が後押ししてくれたのだ。そして、裕三氏は、そんな両親への感謝を込めて実家の鮮魚店の近く、茅ヶ崎で開業する意思を固めた。
店名の由来は、育ててくれた環境への感謝から
開業時の店名は、「海席キュイジーヌ 空海」とした。茅ヶ崎に住む人なら誰しもが魅了されている 「広い空、青い海」。このワードから『空海』と名付けた。そして、魚屋の息子、会席料理の経験というバックグラウンドから、魚を扱った「海の幸」と「会席」をかけて、『海席』として、1997年に「海席キュイジーヌ 空海」は、茅ヶ崎市南湖に産声をあげる。 前の店からの常連さんからは、「まだ30歳なのに、ずいぶん硬い名前付けたなー おじさんが付けそうな店名だね。と言われました(笑)」と裕三氏。しかし、この店名に裕三氏の人生が詰まっていると言える。愛着以外の何者でもない。
店舗移転、そして念願の空間へ
長年、南湖に構えた「海席キュイジーヌ 空海」は常連に支えられ、メディアでも取り上げられる機会も増え、有名人もお忍びで来るような人気店となった。やがて評判は広がり、宴会やパーティのニーズも増えたが、カウンターメインの店舗。気に入ってはいたが手狭に感じていた。そんな時、地元で得られた信用のおかげでご縁があり、そんなニーズに答えられそうな物件を紹介いただき、茅ヶ崎駅近くに2014年に移転。実は移転を考え始めてから10年近くもかかったという。
その移転の狙い、10年かかった理由はもうひとつ。
「ただ移転しようと思っているじゃなくて、ギャラリーぽい、絵を展示が出来るお店がやりたい」と裕三氏は考えていたそう。
紹介をいただいた物件は古い建物で、飲食店をやるにはかなりのメンテナンスが必要だった。しかし、建物の雰囲気がとても良く、現状を活かしたリノベーションをすれば良い店が作れそうだと、直感で決めたという。その時にふと、無造作な壁を見て、以前イメージしていたギャラリー構想が沸々と浮かび出てきた。最初に飾りたいと考えていたのは、学生時代の後輩でもあった、茅ヶ崎のアーティスト川城夏未さんの絵。見え方によって変わる質感にこだわりを持ち、赤い色のアクリル絵の具、油絵の具、蜜蝋を使い分け、いろんな角度や時間帯によって違う顔を見せる。「赤い色には食欲を促進させる効果もある」という裕三氏の狙いの通り、色彩豊かな料理と相まって、温かな食事を楽しむひとつの空間として成り立っている。
「ORIENTAL APARTMENT」
店内を見渡すと、絵だけではなく、大きいシャンデリア、大きい黒板、棚には小物や雑貨。一見雑多に見えるが、実はこういったお店を構成する要素も少しずつ変化を加えているという。こういった演出のセンスが溢れ出し、お店から一歩飛び出して、2階のギャラリー「ORIENTAL APARTMENT」を運営することとなった。 アーティスト川城夏未さんの赤い絵を見て、絵を展示させて欲しいという声をいただくようになったため、地元のアーティストのためにギャラリースペースを作ろう
となったことがきっかけ。 レンタルスペースとしても活用できるため、ギャラリーだけでなく、ワークショップスペース、出張エステ、ヨガのスタジオ、動画配信のスタジオなど、様々な用途で提供している。アーティストと地域の方々が交流し、また思い思いの時間を過ごせるよう、長年飲食店を営んできたマスターの想いが現れている。
店内の壁面の棚には、各地で仕入れた雑貨小物が置かれている。店に合うかと迷いながら購入しても置いてみると意外に馴染むそう。随所にマスターとマダムのセンスを感じる。
店の顔でもある大きなシャンデリアは実は半手造り。柔らかな明かりは赤い絵とともに食欲を誘う。
窓側の席の照明もマスターの手造り。車輪にスプーンやフォークを吊るし、そのシルバーに反射する灯りは何とも心を落ち着かせる。
地元に貢献して、茅ヶ崎を元気にしたい熱い想い
クーカイの料理には、近隣の商店の食材が使われていることがある。たとえば、魚介は、鮮魚店「魚卓」からも仕入れることもある。アヒージョのパンは「パンキー」のものを数種類使っている。 「料理人としては“僕の仕事”を売るのが仕事。」というマスター。長年の料理人人生から、どんなものでも美味しく作る自信はある。鮮魚店の息子ならではの目利き力はある。しかし、どうせ使うなら近隣の商店のものを使って、地域に貢献したいという。
その貢献したい想いは、お客様に対しても同じだ。茅ヶ崎には家族で外食できる飲食店が少ない、と感じているマスター。クーカイは親子3世代でファミレス・食堂のような使い方をして欲しいという。「子供もおじいちゃんも食べたいものがあって、
お父さんは日本酒、お母さんはワインとか。雑多感はあるけど、家族みんながチョイスしやすいように多彩なメニューにしています」という。もちろん、おひとりさまも歓迎だという。カウンターでひとり、カニチャーに舌鼓するのもクーカイの楽しみ方のひとつだ。
この地域の「ナンバーワンよりもオンリーワンでいたい」とマスターは言う。クーカイなら、あの料理が食べられる、あの雰囲気が味わえる、他に無いね!と思われるお店作りを目指している。すでにクーカイにしかないオンリーワンな魅力をいろいろ紹介してきたが、やはり欠かせないのはマスターを支えているマダムの美保子さんの存在だ。マスターは厨房に立っていて、厨房とフロアの橋渡し担当はマダム。「“美味しい”は味だけでなく、その場の空気感も大切」というマスターの接客方針もあり、付かず離れず心地よい接客と空間を提供している。さらに、クーカイのFacebookページやinstagramなどSNSで日々変わりゆくクーカイを発信しているのもマダムなので、すっかりお店の顔となっている。SNSでは新しいメニュー情報や、イベント、空席情報、マスターとの外食日誌など楽しい情報を発信しているのでチェックしてみては。
実は取材時に試作中だった料理、「肉骨茶」も2週間後には新メニューに登場していた。いつ訪れても新しいクーカイ。人気店なので予約していくことをオススメする。宴会でも家族でもデートでも一人でも、ぜひ一度クーカイワールドを味わって欲しい。
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【YUZO SELECTION:arecole cuisine クーカイ】
・第1話 料理もお店もスタイルは変えない。でも、いつも新しい。あれこれの多国籍創作料理 「arecole cuisine クーカイ」
・第2話 【STORY】 茅ヶ崎への想いと自分の本心と向き合い、生まれた「クーカイ」。
▼インタビュー・編集 宇野知行
茅ヶ崎生まれ、茅ヶ崎育ち。食関連のサイト運営会社にて飲食店の繁盛の秘訣を探り続け、飲食店向けの情報誌の編集、マーケティング、販促支援などに従事。料理だけでない飲食店の魅力や楽しみ方を伝えるのがポリシー。週末ライター時々、釣りバカ。
▼インタビュー 小野寺将人(Facebook / Twitter)
2015年、茅ヶ崎市に移住。「エキウミ」の管理人。住宅・不動産サイト運営会社、お出かけ情報サイト運営会社にて営業・企画職を経た後、現在は総合ポータルサイトにて企画職に従事。ハンドメイドアクセサリーブランドm'no【エムノ】のウェブマーケティングも行う。
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