【4Heartsの那須かおりさん】耳が聞こえないXジェンダー当事者として、皆が生きやすい世界を目指す「スローコミュニケーション」の考え方とは。

茅ヶ崎に住むユニークな方を紹介する「茅ヶ崎で暮らす人」。今回は一般社団法人4Heartsの代表をされている那須かおりさんにご登場いただきます。生まれつき耳が聞こえない那須さんが提唱する「スローコミュニケーション」は、すべての人に知って欲しい考え方ですので、ぜひ最後までお読みください。


■より生きやすい世の中へ


――― はじめまして。那須さんも私も茅ヶ崎にいますが、コロナ禍なのでリモートでお話を伺わせてください。いま那須さんとはZOOMで自然に会話ができていますが、重度の聴覚障がいと伺いました。


那須 はい、生まれつき耳がまったく聞こえません。読唇術と表情、あと会話の文脈から話を理解して話しています。


――― すごいスキルだと思います。そういえば最近はマスクで口元が隠れるので、難聴の方が困っているそうですね。


那須 そうですね、もともと日常生活で困ることはありましたが、コロナ禍でさらに大変になったと思います。ただ逆に良いこともありました。いまもZOOMで使っているのですが、自動で文字起こしをしてくれるテクノロジーがすごく進化したんです。


――― これまで日本語の文字起こしツールは精度が低いものばかりでしたが、これはすごく精度が高いですね。


那須 想像してみて欲しいのですが、この文字起こしの日本語がフェイスシールドに映れば、相手の表情を見ながら会話ができますよね。
このあとお話しする「スローコミュニケーション」の活動にもつながりますが、こういうツールの進化も含め、障がい者にとってより生きやすい世界になったら良いなと思います。


■お互いが相手を思いやる「スローコミュニケーション」


――― 那須さんが代表をされている一般社団法人4Heartsの活動について教えてください。


那須 4Heartsは聴覚障がい者の当事者として、自分の気持ちを言葉にできたり、ありのままの自分でいられる社会を目指しています。その中で、ゆっくり伝える・受け取る、「スローコミュニケーション」をしていこうと呼びかけをしています。


――― ゆっくりコミュニケーションを取ることが、自分らしくいられる社会につながるとは、どういうことでしょうか。


那須 例えば先日行った実証実験では、健常者の方にイヤーマフをつけて、音のない世界での買い物体験をしてもらったんですね。


↓実証実験の様子(参照元

――― 体験者はどのような様子でしたか。


那須 レジで買い物をするとき、とても不安そうでした。自分がなにか間違っていないか、常に心配なんですよね。レジの人や次の順番のお客さんに迷惑をかけていないか、聴覚障がい者にとってはそういうストレスが日常的にあるんです。


――― なるほど。それは生きづらいと感じる方がいるのも無理はない気がします。


那須 お年寄りの方がレジで小銭を出すのにまごつく時間とか、小さい子どもが「自分でお金を渡したい!」とぐずる時間とか、そういう時にゆっくり(スロー)で良かったら安心するじゃないですか。そういうゆっくりなコミュニケーションに対してウェルカムなお店を茅ヶ崎から増やしていきたいです。


■障がい者が安心できるお店をつくる


――― スローコミュニケーションは、これから多くのお店に求められていくことかも知れませんね。


那須 そのための企業研修も作り始めています。神奈川大学との共同研究で、スーパーに協力いただいて耳を塞いだお客さんの買い物を受けるレジを作ったんですね。最初、レジの方はやはり戸惑っていましたが、どんどん接客が上手になっていくんです。


――― 難聴者とのコミュニケーションが上達したのですね。


那須 はい、意識していれば皆さん対応できるんです。
耳が聞こえにくいのはパッと見でわからないので、「難聴者に会ったことありません」という方がほとんどなのですが、実際は気づいていないだけでたくさんいるんです。迷惑をかけたくないから分かったフリをしてやりすごしたり、話しかけるのを諦めてしまったりしているだけかもしれません。



――― なるほど。


那須 まずお店の人がそのことに気がついて、そしてスローコミュニケーションで対応できるようになったら、それはきっと他の障がいをお持ちの方にとっても安心できるお店づくりになると思うんです。


――― 聴覚障がい以外についても同じことが言えるのですね。


那須 そうなんです。コミュニケーションの選択肢っていろいろあって、お互いが気持ちよくできるものを選択していくのが大切だと思います。


■2極で語らない


――― お店と言えば、那須さんはいつかカフェバーを開きたいそうですね。


那須 はい。4Heatrtsの理事である津金は手話通訳士で、私は産業カウンセラーの資格をもっているので、彼女と一緒に「対話ができるカフェバー」を作りたい、というのが4Hearts発足の大きな動機なんです。


――― 対話をしやすい場所を作りたいのですね。


那須 私は重度聴覚障がいであると同時に、LGBTの当事者なんですね。「Xジェンダー」と言って、性別は男女どちらでもない立場なんです。つまり、いわゆる「ダブルマイノリティ」として生きてきました。


――― 二つのマイノリティを、子どもの頃から背負うのは苦しかったのではありませんか。


那須 そうですね。子どもの頃から、聞こえる人への反骨精神で生きてきたので、その延長で「男は青」「女は赤」というトイレの色にすら反発をしていました。
聴覚障がいに関しても、私は口話ができて手話ができなかったので、聞こえる側にも聞こえない側にも入れなかったんです。
そうやって狭間を生きてきた私の結論としては、「2極で語らない」のが大事だということでした。


――― 2極がなければ、その狭間もなくなるということですね。


那須 だから4Heartsのロゴは、赤と青の間の紫色と、白と黒の間のグレーを使っています。また、男性でも女性でもない、人間でも機械でもないサイボーグの画像もコンセプトを表現するときに使います。


↓4Heartsのロゴとサイボーグの写真


■スローコミュニケーションのある通りへ


――― ところで、那須さんは神戸のご出身ですよね。どうして茅ヶ崎に移住されたのでしょうか。


那須 茅ヶ崎に来たのは、人生を再スタートさせるためでした。
私31歳のとき車にはねられたんですけど、そのとき「なんで生きてるんだろう」って思ったんですね。実は中学生のときにも、阪神・淡路大震災で死を身近に感じたことがあったんですけど、大人になってまた死を身近に感じたとき、自分の人生を一度まっさらにしたいと思ったんです。


――― 再スタートの地として選んだ茅ヶ崎は、暮らしてみていかがですか。


那須 人との距離感がすごく心地よいと感じます。都会よりも人との距離は近くて、でもお互い干渉しすぎない人が多いですね。あとなにかやりたいと言ったら面白がってくれる人が多いのも良いところだと思います。


――― よくわかります。最後に、この「エキウミ」は雄三通りを拠点としていますが、通りや商店街がより良くなるアイディアをいただけますか。


那須 まず雄三通りの印象ですが、やっぱり耳が聞こえないので、最初は大きなバスが怖かったですね。ただプレンティーズさんでアイスを買ったり、CHELSEA hairの高久さんと一緒に活動をしたりと何度か通るうちに車にも慣れて、賑やかで良い通りだと思うようになりました。


――― 確かに交通量は多めですから、慣れが必要かも知れませんね。


那須 雄三通りってバスが2台通れるぐらいの広さがあるので、道を挟んで会話をするにはちょっと遠いじゃないですか。でも手話だったら距離が関係ないので、道を挟んでも簡単にコミュニケーションが取れるんですね。


――― たしかに手話のコミュニケーションには問題ない距離感ですね。


那須 そうなんです。なので、雄三通りの道を挟んでちょっとした会話をするときに、サッと手話をしている風景があったら素敵だと思うんです。
「今日の夜6時ね!」とか「今日サーフィンしたの?」とか、そういう手話のやりとりが日常的にある通りになったら、格好いいし、面白いなと思いました。


――― それは想像したら素敵ですね。


那須 そうすると、耳が聞こえない方だけでなく、なにか別の障がいを持っている人にとっても行きやすい空気になると思います。「この通りのお店の人たちは、きっと自分とも丁寧にコミュニケーションを取ってくれる」って信じられるじゃないですか。


――― まさにスローコミュニケーションの考え方ですね。


那須 はい。私は茅ヶ崎の元気な個人店の方々と何気ない会話をしながら買い物をするのが夢なんです。「今日のおすすめなんですか?」「どうやって食べたらおいしいですか?」みたいな会話って、すごくハードルが高いんです。だから、これは雄三通りに限らずですが、地域のお店の方々がスローコミュニケーションに賛同してくれたら、すごく嬉しいです。


――― とても素敵なお話でした。インタビューは以上です、ありがとうございました。


(おしまい)




▼インタビュー・編集 小野寺将人(Facebook / Twitter

2015年に茅ヶ崎市に移住し、2017年に「エキウミ」を立ち上げる。地域密着EC東海岸商店会の公式サイトの運営や、片耳難聴noteマガジンの連載、記事の寄稿も行う(SUUMOタウンGyoppy!ARUHIマガジンSPOTほか)。

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