【神山まるごと高専の大南信也さん】「生きた学問にする。」AI時代の地域×教育モデル

日本で活躍する方にお話を伺うEKIUMI SPECIAL TALK。今回は徳島県神山町の認定NPO法人グリーンバレーの理事、大南信也さんにご登場いただきます。大南さんが準備委員会の代表を務める「神山まるごと高専」について深堀りすることで、これからの時代に合わせた「地域×教育」のあり方に触れられる内容です。ぜひ最後までお読みください。(全2話)


■「神山まるごと高専」の成り立ち


――― 神山町といえば地方のサテライトオフィス(本社とは離れた地域に置くオフィス)誘致で有名な地域ですよね。


大南 最初はSansan(クラウド名刺管理サービス運営)の寺田社長が、2010年10月にサテライトオフィスを置いてくれたんやね。

まあ当時は空き家で3人が仕事を始めた感じで、まだお手洗いも水洗じゃなくてな(笑)


――― それがいまや多くの企業が神山町にサテライトオフィスを置くまでになりました。


大南 グリーンバレーのスタッフがガイドするサテライトオフィスツアーもあるので、都合が合えば是非参加してみてください。


↓ツアーで見られる「えんがわオフィス」


大南 Sansanが2019年6月19日にマザーズに上場した2日後に「神山まるごと高専」の記者説明会を開いたんよね。

結果的に、ベンチャー起業家が株式上場を果たし、すぐに新たな教育プロジェクトを立ち上げる道筋が非常に健やかで良いと評価する声が多かったですね。


――― その時のプレスリリースには、「次世代型高専」と書いてありますね。


大南 どの地方も似てると思うんやけど、神山の子たちは中学校を卒業したあと90%以上が高校進学で町を離れるんよ。

そんな状況の町で教育プロジェクトを始めるならどんな形が最適なんやろうと考えた中で出てきたアイディアが「高等専門学校」という仕組みなんやね。


■AI時代に合わせた教育プログラム


――― まず高専自体の特徴は「5年間の一貫教育で専門スキルが学べること」ですが、「神山まるごと高専」にはどんな特徴がありますか。


大南 神山町にはITを始めとしたいろんな専門家がいるけん、みんなで一緒に学ぶ場をつくるんよ。

キャンパスはあるけど町との境界はなくして、町を「まるごと」巻き込んだ高専にしようというわけやな。


――― 世界中から人材が集まる神山町ですから、面白そうですね。


大南 「神山まるごと高専」は2028年に一期生が卒業するんやけど、その頃はどんな時代になっているんやろなと。

たとえばAIなんかは、現在のワードやエクセルみたいに一般化しているかもしれん。


――― つまりAIは使えて当然のツールになっていると。


大南 ほなけん「神山まるごと高専」が輩出する人材が単に技術オタクだとしんどいと思うんよね。

AI自体に詳しいだけじゃなく、それを応用して新しいものを生み出せる人の方が良い。

そのためにはアートやデザインの素養が役に立つと思うんやけど、神山町は国際的なアート・プロジェクトを20年以上も続けてきたから、これがぴったりの場所なんよね。


――― よく言われる「STEAM教育」のようなイメージでしょうか。


大南 うん、テクノロジーに心理学や哲学、倫理の学びを組み合わせて血の通ったSTEAMにしていきたい。

あとは扱うテーマが大事やけども、たとえば一例として「パーマカルチャー」なんか面白いと思うんよな。


■生きた学問にする


―――「パーマカルチャー」とは、持続可能な農法や文化のことですよね。


大南 そうそう。その持続可能性とか循環社会って考え方が、まちづくりと関係しとるんやな。

いま世界のまちづくり先進地といえばアメリカのポートランドなんかが有名やけど、一方でパーマカルチャーの考え方が根付いとるんよね。


――― それを「神山まるごと高専」の授業にも取り入れるんですね。


大南 ポートランドでパーマカルチャーのリーダー的な実践者がおるんやけど、何年か前から神山に出入りしよってな。

「神山まるごと高専」の話をしたら、もしパーマカルチャーベースにした講義ができるなら神山に移住してカリキュラムづくりから関わりたいって言ってくれとるんよ。


――― 神山で、世界最新の事例を学べるんですね。


大南 そうそうそう。それでさらに考えたのが、彼の講義を英語の授業と融合させてしまおうと。

パーマカルチャーの講義を英語でやってもらうことによって、英語の学習と同時に生物多様性、持続可能性、まちづくりまでも学べるみたいな感じやな。


――― ずいぶん贅沢な英語の授業ですね…。


大南 結局、受験のために英語を学ぶのじゃ苦痛というか、まあ面白くない子もおるな。

でも彼の授業を理解しようとしたときに、英語が便利なツールになる。

そこで生徒が必要性を感じて、英語と向き合うモチベーションが持てるわけやな。


――― AIと同じで、英語も便利なツールとして捉えるんですね。


大南 そうやって子どものやる気を引き出すプログラムで、生きた学問にする。

文科省の学習指導要領から外れなくても学問の垣根を緩くしていけば面白くなるやろうと。


――― それこそ町に出て、実際の課題を肌で感じられればまた違った勉強の必要性を感じられそうです。


大南 その通りで、神山をまるごと活用すればいろいろできるんよな。

いろんな種類の仕事が消え去っていく時代に、自分で課題を見つけて仕事をつくる人を育てられる。

「神山まるごと高専」は起業家を育てるためだけではなく、起業家精神は育む学校なわけよな。


■高専は親にとっても安心


――― ところで、なぜ高校や私塾ではなく、高専を選んだのでしょうか。


大南 高専はいま全国で57校あるんやけど、ここ20年間新設校が生まれてないんよな。

でも、いま高専出身の子たちはIT企業なんかで活躍しよる人がいっぱいおるんよ。


――― そうですね。


大南 寺田社長と話をしとる中で、5年間一貫して専門的知識を学べる高専を現代風にアップデートしたら、これまでにない面白い学校が生まれるんじゃないかと。

既に高専って就職に有利で、かつ大学に編入もできるという出口が見えてるから親も安心なんよね。


――― 中学校の卒業時点では、まだ親の意向が大きいですもんね。


大南 徳島の先生から聞いた話やけど、三者面談をすると大体の親は「うちの子が徳島に残るって言うんやけど、残らんよう先生から話してくれ」って言う人も多いらしいんよな。

そういう親の不安も払しょくできるという意味においても、高専は良い立ち位置におるんよな。


――― これからの「地域×教育」のあり方について非常に参考になるお話でした。後編は「神山まるごと高専」が目指すモデルについてより詳しく伺います。


(次回につづく → 一番の原動力は、その「変化の向こう側を覗いてみたい」という好奇心





▼インタビュー・編集 小野寺将人(Blog / Facebook / Twitter

2015年に茅ヶ崎市に移住し、2017年に「エキウミ」を立ち上げる。東海岸商店会の公式サイトの運営や、アクセサリーブランドm'no【エムノ】のウェブマーケティング、記事の寄稿も行う(SUUMOタウン「まだ茅ヶ崎に行ったことのないあなたへ」、Gyoppy!「スーパーにはない魚が買える」茅ヶ崎の人気鮮魚店が果たしている大事な役割)。

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