【神山まるごと高専の大南信也さん】一番の原動力は、その「変化の向こう側を覗いてみたい」という好奇心
(前回の記事はこちら → 「生きた学問にする。」AI時代の地域×教育モデル)
■野武士型パイオニア
――― 前回、「神山まるごと高専」は起業家精神を育む話を伺いました。より具体的なイメージはありますか。
大南 どこでも生きていける「野武士型パイオニア」が一つのイメージなんよな。
これにはモデルがおって、神山町でフレンチビストロ「カフェ オニヴァ」をつくった齊藤郁子って人なんやけどな。
――― つまり、その齊藤郁子さんのような人を育てたいと。
大南 うん、彼女はきっとどこでも生きていける気がするんよ。
たとえば、「齊藤さんすまんけど、明日からサハラ砂漠に行ってな」と言われても、たぶん行ったその日から砂で何か新しいこと始めとるやろうな(笑)
――― とてつもない生命力ですね。
大南 うん、めちゃくちゃ生命力あるな(笑)
もともとAppleで働いていたんやけど、神山町に来たときに「カフェを開く」とか「サウナをつくる」とか…あとは「馬を飼う」とか言っとったんよな。
――― え、馬ですか?
大南 そう、馬飼うのん…?(笑)
当時は周りもそんな反応で、いやー所詮は夢でしょっと考えてたんやけど、実際に実現させてしまったんよな。
それで「神山まるごと高専設立準備委員会」をスタートさせる前から、どういう子を育てたいかという議論をしてたんやけど、「よし、あの郁子さんのような人間を育てよう!」と意見が一致したんよ。
■齊藤さんの育て方
――― どうしたら齊藤さんみたいになれるのでしょうか。
大南 小さい頃にどんな教育を受けたのか聞いたら面白い話が返って来てな。
小学生の頃、教科書の入った通学バッグが重かったらしいんやけど、あるとき「(使わない教科書の持ち運びは)これ意味ないな」と思ったらしいんよ。
――― 子どもながら、こんなに要らないと気づいたんですね。
大南 そうそう、それで「先生、これ意味ないと思うからもう持ってこなくて良いですか」って聞いたと。
そこで先生が偉かったんが、「齊藤さんが必要ないと思ったらそれで良いよ。でも必要と思ったらまた持ってきてね」って言うたと。
――― すごい。ルールを押し付けなかったんですね。
大南 うん、ほんで彼女がどうしたと思う?
家に教科書を全部置いて、必要なページだけ破いて学校に行ってたらしいんやな(笑)
――― (笑)
大南 その後に今度は宿題が意味ないと思って、「先生、私は帰ってからすることがたくさんあるから、もう宿題しなくて良いですか」と聞いた。
そしたら先生が「必要ないと思うんならそれで良いよ」って言ってくれたんやって。
そうやって育った結果が、いまの齊藤さんなんよなあ。
■人は多面体
――― 齊藤さんはともかく、その先生もすごい方ですね。
大南 とにかく先生が偉かったんは、やらせてみて気づきを与えたということやな。
人って自ら気づくことで成長できるけど、その気づきは教えられんから難しい。
――― たしかにそうですね。
大南 はなけん、教育って、そうやって子どもが気づきを得られる状況をつくることが大事なんやろうな。
自分で気づければ自分の頭で考えられるし。時代の変化にも対応できる人になれる。
――― これからの時代を生き抜く人材になれる。
大南 ほんでこの間、齊藤さんにビジネスマン向けに講義をしてもらったんやけど、そこで話してた内容が良くてな。
彼女によると、人間はいろんな側面を持っている多面体らしい。
人間はすべて素晴らしい能力や長所を持っていて、その面にピタッと光が当たると、パッと輝きだす。
それぞれの人の持つ良い面を見るようにしていますってな。
――― それは子どもの教育にも通じる話ですね。
大南 うん、そういうことを「神山まるごと高専」でもやろうと思ってな。
たくさん機会を与えて、子どもの良い面を引き出していく。
神山には面白い人がたくさんおるから、それをみんなでやっていきたいんよな。
■変化の向こう側
――― 最後に、挑戦を続ける大南さんのモチベーションの源について教えてください。
大南 自分のやりたいことをずっとやってるだけなんよ。
面白いと思うことをやっているだけであって、仕事じゃないけんね。
――― 仕事ではないことがポイントですか。
大南 仕事でないことの利点は二つある。一つは成果を求められない。そして、もう一つは期限もない。
ゲートボールをやってる人に、「なんのためにやってるんですか?ずっと続けるんですか?」なんて聞くのおかしいやん。やりたいからやっているだけ。それと同じなんよ(笑)
――― わかりやすいです(笑)
大南 そうそう。責任もなく、制約もなく好きなようにやれるけん、想像せんようなものが健やかに育っていくんやろな。
そうやって続けていれば、いずれ世の中に変化が起こせる。
一番の原動力は、その「変化の向こう側にあるものを覗いてみたい」っていう好奇心なんよ。
――― その好奇心を満たすために、やりたいことをやっているんですね。
大南 うん、ただ「神山まるごと高専」についてはひとつプレッシャーがあってな。
予定通りに進めば、2020年夏頃に文部科学省の認可が下りて、2023年4月に開校するんやけども。
一期生はちょうどいまの小学6年生なんよな。
――― いまの小学6年生が、中学卒業後に「神山まるごと高専」に入れる最初の代なんですね。
大南 ほんで、いま神山に優秀な小学校6年生男の子がいて、その子が徳島市内の中高一貫校にするか、それとも神山中学校に進学して「神山まるごと高専」に行くかで迷ってるらしいんよ。
――― それは責任重大ですね(笑)
大南 そう、それが一番プレッシャーでな(笑)
もし「神山まるごと高専」を選んでくれたら、絶対に2023年に間に合わせないといかんやん。
彼のためにも、一生懸命頑張らんといかんのよな。
――― 最後まで、本当に良い話を聞かせていただきました。インタビューは以上です。ありがとうございました。
(おしまい)
▼インタビュー・編集 小野寺将人(Blog / Facebook / Twitter)
2015年に茅ヶ崎市に移住し、2017年に「エキウミ」を立ち上げる。東海岸商店会の公式サイトの運営や、アクセサリーブランドm'no【エムノ】のウェブマーケティング、記事の寄稿も行う(SUUMOタウン「まだ茅ヶ崎に行ったことのないあなたへ」、Gyoppy!「スーパーにはない魚が買える」茅ヶ崎の人気鮮魚店が果たしている大事な役割)。
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