【JAXAの山田隆弘さん】小惑星探査機「はやぶさ」の通信方式を設計。「はやぶさ2」や金星探査機「あかつき」にも採用。

茅ヶ崎に住む面白い方を紹介する「茅ヶ崎で暮らす人」。今回は日本の宇宙開発を担う機関「JAXA」にお勤めの、山田隆弘さんにご登場いただきます。かの有名な「はやぶさ」にも関わられた山田さんのお話を、ぜひ最後までご覧ください。(全2話)


■「はやぶさ」の通信方式を考えた


↓はやぶさ2のイラスト(JAXA提供)

――― 私は漫画「宇宙兄弟」が好きなので、茅ヶ崎にJAXAの方がいると聞いたときはびっくりしました。本日は宇宙についていろいろと教えてください。


山田 はい、よろしくお願いします。


――― 山田さんはあの有名な「はやぶさ」にも関わられたんですよね。


山田 はい。2003年に打ち上げて、2005年に小惑星「イトカワ」に到着し、2010年に帰還したのが小惑星探査機「はやぶさ」です。

映画にもしていただいて、随分マスコミにも評価をしていただきました。


――― 私も映画を観ました。さまざまなアクシデントを乗り越えていく様子が印象的でした。


山田 「はやぶさ」を題材にした映画は三本あって、2011年に公開された西田敏行さんや竹内結子さんがご出演されているものはもはやドキュメンタリーですね。

例えば「はやぶさ」の責任者を演じる佐野史郎さんが着ているものは、実物とまったく同じものだったんですよ。

よく見慣れた感じで、面白かったですね(笑)


――― そこまで再現されているんですね。


山田 もう全部そっくりでした。

だからあの映画の中には、台詞はないんですけど私そっくりの人も出てくるんですよ。


↓はやぶさ2打ち上げ時の管制室。手前の左から二番目が山田さん(JAXA提供)


――― 山田さんは「はやぶさ」のプロジェクトにおいて、どんな役割だったのでしょうか。


山田 私は地球と「はやぶさ」との通信方法について考える役割でした。

地球と衛星のやり取りには、専用の決まりをつくらなくちゃいけないんですけど、その決まりをつくるのが私の仕事なんです。

「はやぶさ」の場合は制約条件が厳しかったので、既存のものではなく新しい方式を考えたんです。


――― 通信と言えば、映画では40日間通信が途絶えてしまったアクシデントが描かれていました。


山田 あれはエンジンの燃料を運ぶ管からガス漏れが起きて、そのガスの勢いで「はやぶさ」が変な回転をしてしまったので、アンテナが地球の方を向かなくなってしまったんです。

最終的には姿勢が安定して地球にアンテナが向いて、その瞬間に衛星と交信ができるようになりましたが、その影響で地球に帰ってくるのも2年ぐらい遅れましたね。


――― それを聞いていてやっぱり思うのは、人が乗っていない場合はなにかトラブルがあったら地球から通信して立て直すしかないわけじゃないですか。そういう意味では通信っていうのは要ですよね。


山田 うん、それはそうなんですけど、まあ全部要なんですよ。

要じゃないものはわざわざ乗っけませんから、みんな要です。

ただ宇宙に打ち上げたらもう通信でできる範囲のことしかできませんから、それはその通りだと思います。


――― なるほど。


山田 幸い通信そのものに問題はなかったので、その通信方式は「はやぶさ2」や金星探査機「あかつき」でもそのまま採用されました。


――― 山田さんが考えた通信方式は、それほど完成度が高かったんですね。


■アメリカの文化とNASA


――― ちなみに地球で通信をするアンテナはどこにあるのでしょうか。


山田 日本だと、長野県佐久市の臼田の山の中に、直径64メートルのパラボラアンテナがあるんです。

でも地球は自転していますから、臼田だけだと通信が継続できないのでNASAのアンテナを借りています。


――― あ、意外と使わせてもらえるんですね。各国の競争が激しいイメージがありました。


山田 もちろんタダで使わせてもらうということではなく、条件交渉があります。

「はやぶさ」の場合は、地球に持ち帰ってきたサンプルの分析を日米共同でやりましょうという約束なんですよ。


――― つまり、アンテナを使わせてもらうために、サンプルを提供するというギブアンドテイクになるわけですね。


↓ゴールドストーンにあるNASAのアンテナ前で撮影(右から二番目が山田さん)


山田 条件さえ決まれば、あとは現場でどうやって連携していくかを、私がNASAの担当者とやりとりをします。


――― 国は違えど、お互いに宇宙開発という共通の目的があると仕事も捗りそうですね。


山田 そうですね。特にNASAのメンバーはやはりプロ意識が強いですよ。

私もNASAの研究所で働いたことがあるのですが、あそこでは得意なことを勝手に、好きなようにやらせてもらえる環境があります。


――― 世界中からトップ人材が集まる理由もそこですか。


山田 はい。私の知っている人の例で言うと、台湾生まれでアメリカ留学して、卒業後に戻ってもハイテクの仕事がないので、そのままアメリカに定住しているんですね。

NASAは間違いなく世界最先端ですし、それぞれ自分が得意なことをとことん、それこそ20年とか長期間やらせてもらえるので、自然とその分野のトップが集まっています。


――― なるほど。


山田 アメリカは、その人にマイナスの部分がいくらあろうと、一つ突出したプラスがあれば評価されるような文化ですから。

NASAでなくとも、アメリカではイーロン・マスクが宇宙開発事業を頑張っていますが、そういう他の人がやらないことこそ評価するし、しっかりお金が集まるんです。


↓JPL (NASAの研究所)で打ち合わせを行った時の写真(左から二番目が山田さん)


――― 2023年の月旅行にZOZOの前澤社長が行くことが日本でも大きなニュースにもなりましたね。元ライブドア社長の堀江さんも熱心な領域です。


山田 実は日本の民間企業にもispaceという会社があって、月面探査機レース「Google Lunar XPRIZE」で話題になったんですけども、頑張って欲しいですよね。


――― なかなかいまの時代に、宇宙ぐらい未知への挑戦という分野ってないですよね。


山田 そうですね。「行ってないところに行く」という点ではそう思います。

ちなみに、「はやぶさ2」は2020年の12月に帰ってくる予定ですから、ぜひ注目していてください。


――― 次回は山田さんがJAXAに入るまでのお話と、今後の展望について伺いたいと思います。


(次回につづく→JAXAで見えてきた課題。必ず正しく伝わる文章のルールをつくりたい。


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▼インタビュー・編集 小野寺将人(Blog / Facebook / Twitter

2015年、茅ヶ崎市に移住。「エキウミ」の管理人。住宅・不動産サイト運営会社、お出かけ情報サイト運営会社にて営業・企画職を経た後、現在は総合ポータルサイトにて企画職に従事。東海岸商店会の公式サイトの運営や、ハンドメイドアクセサリーブランドm'no【エムノ】のウェブマーケティングも行う。

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