【保護司会 茅ヶ崎・寒川地区】犯罪・非行から立ち直ろうとする人に、寄り添う人がいます。保護司の板坂光明さん、戸井田 慎さん

茅ヶ崎に貢献する方を紹介する「Think Chigasaki」。今回は、犯罪や非行のない明るい社会づくりに向けた取組を70年以上にわたり進められている茅ヶ崎・寒川地区保護司会の板坂光明さんと戸井田 慎さんにご登場いただきます。

犯罪や非行からの立ち直りに向けた地域の取組について考えるきっかけになるお話です。ぜひ最後までお読みください。


■保護司の活動とは


――― 本日はどうぞよろしくお願いします。まず、保護司とは、どのような方なのか教えてください。


戸井田 保護司は、犯罪や非行をした人が、責任ある社会人としてやり直せるように支援をする非常勤の国家公務員です。


▼保護司のショートムービー(法務省×吉本興業)


――― 国家公務員なんですか?


戸井田 はい。ただ、活動のルーツが、民間の篤志家による慈善事業だったこともあり、ボランティアですが(笑)


――― どのような活動をされているんですか。


戸井田 1つは、地域で犯罪や非行の防止に向けた啓発活動があります。“社会を明るくする運動”として、街頭でのPR活動や街のいろんな場所にポスターを貼らせていただいたり、小中学校や地域のイベントなどで薬物の怖さを伝える活動などをしています。


――― このポスター、よく見かけますね。その他には、どのようなことをされていますか。


戸井田 犯罪や非行をした人の中には、「保護観察」と言って、保護観察所という国の機関の指導・監督を受けながら、地域で生活している方がいます。


板坂 保護司は、地域の身近な存在として、刑務所や少年院から地域に戻ってくる人の住居や仕事先を一緒に探したり、2週間に1回、自宅などで面接をして、立ち直れるようにサポートしています。


――― 自宅で面接をされているんですか。


戸井田 そうですね。最近、茅ケ崎市消防署の一角を借りることができたので、「更生保護サポートセンター」として、自宅以外でも面接や打合せができるようになりました。


――― どのような方が保護司をされているんでしょうか。


戸井田 会社員や公務員、商工会の方や学校の先生、お坊さん、主婦の方、町の議員さんなどです。


――― いろんな経歴の方が集まっているんですね。茅ヶ崎・寒川地区では、保護司さんや保護観察を受けている人は、どのくらいいらっしゃるんでしょうか。


戸井田 茅ヶ崎・寒川地区の保護司会には41名の保護司が所属しています。茅ヶ崎市に33名、寒川町に8名ですね。保護観察中の人は、時期にもよりますが、50~100名くらいです。


――― そんなに多いんですか?どのような犯罪が多いんでしょうか。


板坂 これまでに私が担当したのは、放火や万引き、薬物、暴行・傷害だったり、最近だと、振り込め詐欺の受け子など、いろいろです。

戸井田 刑務所や少年院を出てきた方だけでも30名ほどいますが、犯罪の内容は様々ですね。


■地域と関係を持つ中で、保護司になっていました


――― どうして保護司になられたんですか。


板坂 元々、私は高校の教師をしていて、30年ほど前に、父親が亡くなったのをきっかけに、寺の住職を引き継いだんです。寺は昔から、その地域にありますから、自治会にもちょくちょく顔を出して、防災係なんかもやっていたんですね。

そしたら、地域で保護司を長くされている方から、「そろそろ自分は引退するから、保護司になってみないか」と声を掛けていただいて。その方から推薦されて保護司になったということですね。


――― 地域での活動の延長線上に保護司の活動があったんですね。


戸井田 私は、公務員だったんですが、ずっと「地域に役立つ仕事をやりたい」、「安全に暮らせる地域にしたい」という思いで働いてきました。

定年を迎えて、いよいよ引退するとなったときに、自分を育ててくれた地域にお返しができる活動ができないか考えていたんです。

そのときに、以前から知っていた保護司の活動ができないかなと思って、私から手を挙げたんです。


―――実際に保護司として活動するに当たって、不安はありませんでしたか。


板坂 それはなかったですね。私は住職なので、寺の本堂で面接もやるんです。家族と顔を合わすことはないですし、雰囲気が良いですよね。皆さん神妙にされます(笑)


――― 仏様の前だと悪いこともできないですね(笑)


■犯罪は地域で起きる。だから、地域のチカラで犯罪の繰り返しを防ぎたい


戸井田 逆に私の場合、不安はありました。自宅で面接するということについて、妻はもちろん、親戚からも反対されましたね。


――― 万が一のことを考えると心配になりますよね。


戸井田 そうですね。ただ、当たり前のことですけど、警察に捕まったり、刑務所に入ったとしても、最終的に戻る場所は地域なんです。

地域に戻ったとき、犯罪者だからといって排除したり、放置していたら、また犯罪をしてしまいます。「そんなことにならないように、地域の者として、何とかしたい。」その一心ですね。


――― 犯人が逮捕されたというニュースを聞くと、何となく事件が解決したように感じていました。


戸井田 大きな区切りであるということに間違いはありませんが、問題解決のスタートラインに立ったという感覚かもしれませんね。


■「生まれたときから悪人」、なんて人はいない


――― 犯罪の背景には、置かれた環境の問題もあるとのお話がありましたが。


板坂 生まれたときから悪人という人はいませんからね。時間をかければ自分が本来持っている正しい心に気付いてもらえるという期待を持ってます。

ただ、家族を殺めたりといった話を聞くと、そうした考えがぐらっと揺らいでしまうこともあります。人間の心はそういうもんじゃない。綺麗なもんだと思いたいですね。


――― 保護司として接する上で、何か意識していることはありますか。


戸井田 「他人に迷惑をかけない生活を送る」ということだけは、しっかりと伝えた上で、あとは相手の話をよく聞くということです。相手が少年の場合は50年以上も年が離れるので、私が一方的に話すだけでは、何も伝わらないですから。


板坂 話をしているうちに、自然と話している本人の頭の中が整理されて、色んなことに気付けるようになるんです。


(出典)自宅での面接の様子(法務省ホームページより)


――― 犯罪をした人との面接というと、お説教のようなイメージがありました。


板坂 お説教は逆効果ですね。叱られ続けて生きてきた人もいますから。


戸井田 毎月2回も会っていると、なんとなくお互いが分かってくるという感覚がありますし、1年ぐらいを過ぎると、だいたい生活も落ち着いてきますね。


――― これまでに「この人は立ち直れそうだな」と感じるケースはどのくらいあったんでしょうか。


板坂 だいたい半分くらいかな。残りの半分は、また犯罪をしてしまったり、不安を抱えたまま期間が終わってしまうというのが現実ですね。


――― 保護観察の期間を過ぎるとどうなるんでしょうか。


板坂 一般の人と同じになるので、保護司として声を掛けたりすることはできなくなります。

ただ、期間が終わった後でも、「就職が決まった!」、「結婚した!」と言って会いに来てくれる人もいます。そういうときは本当に嬉しいですし、励みになりますよね。


■もっとたくさんの人に保護司の活動を知ってほしい


――― 犯罪という、すごく不安定な状況に置かれている人を支えるのは、本当に大変なことだと思います。地域の方は、保護司の活動のことをどのくらい知っているんでしょうか。


戸井田 法務省のアンケート調査によると、「保護司という存在を知っている」と答えた人は60%いたのに、「保護司が何をしているか知っている」と答えた人は15%しかいなかったんです。


――― 聞いたことはあるけど、何をしているか地域の人はほとんど知らない状況なんですね。


戸井田 そうなんです。少し前までは、保護司であることを周りの人に言うことを避けていたんですが、最近は、地域の方に私たちの活動を知ってもらおうと広報に力を入れているんです。


――― 法務省と吉本興業が一緒に作成した保護司のPR動画も拝見しましたが、広報に力を入れるようになったきっかけは何ですか。


戸井田 保護司の候補者が、なかなか見つからないということですね。今後10年間で、半数の保護司が76歳の定年を迎えて辞めてしまうので、後継者探しが課題になっているんです。


■立ち直りを地域で支え続けるために


――― 保護司の活動が知られていないことは、候補者を探す上で大きなハンデになりますね。


戸井田 そうなんです。1人でも多くの方に知っていただきたいです。商店街の辺りも保護司が足りていないので、熱意のある方がいれば、ぜひ、紹介してほしいです。


――― 保護司になる条件はありますか。


戸井田 一番大事なのは、犯罪や非行をした人の立ち直りを支援するという保護司の活動へ

の理解と熱意を持っているということじゃないでしょうか。

活動内容に不安を感じる方のために、保護司の活動を体験できるインターン制度もあります。


――― インターンですか。


戸井田 そうなんです。保護司の研修やイベントに参加し、保護司の活動を実際に体験してみるというものです。言葉だけでは伝えにくい部分もありますから。


――― 年齢制限はあるんでしょうか。


戸井田 66歳までという制限はありますが、特に30代・40代の保護司が少ないので、そういった方になってもらえると嬉しいですね。


■色んな人との出会いを通じて、自分自身も成長する


――― あらためて、保護司の魅力、やりがいについて教えてください。


板坂 私は、これまでに40人くらいの方を担当してきました。本当に様々で、私のやり方が通用しないこともあります。1人で悩むこともありますが、そんなときには、保護司同士で一緒に考えるんです。

保護司には、色んな経歴を持ったが人が集まっているので、そうした時間はすごく楽しいですし、人間としても成長できるというのが一番の魅力なんだと思います。


戸井田 保護司じゃないと経験できないこと、人との出会いがたくさんあります。犯罪や非行をした人とのやり取りを通じて、「私も一緒に成長できた」と感じる瞬間がたくさんありました。その上で、地域の役にも立てるなんて、これ以上のことはありませんよね。


――― インタビューは以上になります。本日は、どうもありがとうございました。


※カバー写真について:撮影のために一時的にマスクを外していただいたものを使用しておりますが、インタビューは新型コロナウィルスの感染防止策(発熱等の症状がないことの確認・手指消毒・マスク着用・室内の常時換気・ソーシャルディスタンスの確保)を講じた上で行いました。


▼茅ヶ崎・寒川地区更生保護サポートセンター

0467-73-7190 / chiga.hogo@outlook.jp


▼インタビュー・編集 井上普文(Facebook

コミュニティバスに貼られていたポスターを見て「エキウミ」の読者に。そこから、茅ヶ崎のヒト・コトをもっと知りたいと思いエキウミに参加。駆け出しのワークショップデザイナーとしても活動中。

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