人と自然がつながる湘南だからできる。「江ノ島シネマ」企画者、安田ちひろさんの想い
今回ご登場いただくのは、茅ヶ崎市を中心に映画作家としてご活動されている安田ちひろさんです。2019年6月15日〜30日に開催される「第8回 茅ヶ崎映画祭」にて自主制作のオムニバス映画「江ノ島シネマ」を上映する安田さん。その上映を皮切りに、湘南を中心とした映画制作コミュニティの立ち上げを開始。どのような想いがあり湘南で活動するのか、またその立ち上げ背景に迫りました。
※記事の最後に江ノ島シネマのクラウドファンディング情報がありますのでお見逃しなく!
■大学受験の直前に閉ざされた道
――― 早速ですが、安田さんの現在のご活動について伺えますか。
安田 フリーランスで映像制作を行なっています。
たとえばブライダルのエンドロール映像の制作や、シェアハウスのプロモーションビデオ制作などを作っています。
安田 また仕事とは別で「スタジオMalua(マールア)」という湘南を中心とした映画制作コミュニティの企画・運営を始めました。
――― その、「映像制作」と、「映画制作コミュニティ」はどのようにすみ分けているのでしょうか。
安田 映像制作ではご依頼者さんが希望するものを作ります。
コミュニティでは作家活動として自分で発信したいことを映像作品や映画にしていく感じです。
――― その映画についてですが、学生時代からつくりたいと思っていたのですか。
安田 もともとは、体育大に行ってハンドボールに打ち込む予定だったんです(笑)
――― え、体育会系だったんですか。
安田 高校時代に本気でハンドボールをやっていて、体育大学に行くことを目標にしていたんです。
でも高校3年の夏休みに母から突然、本当に突然なんですけども、「あなたは持病の治療をしないといけないから、それは無理」と告げられたんです。
――― 突然ですか。しかももう進路を決めておきたい高校3年生の夏休みに。
安田 そうなんです。もうその挫折感の中で受験勉強にも身が入らず、たまたま受かった大学にただ行くことになった、という感じでした。
■イルカに導かれ、映画に決める
――― 失意のなかで入った大学ですが、すぐに映像制作に目覚められたのでしょうか。
安田 いいえ、全然です。
大学ではまったくやる気が出なかったので、授業に行くふりをして本屋に通いつめて立ち読みばかりしてました。
ハンドボールと同じくらいやりたいと思えることを、ずっと探していたんです。
その時に自己分析をたくさんして、「私、子どもの頃イルカが好きだったなあ」ということを思い出して。
――― 自分を深堀ったらイルカが出てきた。
安田 その後なにかで“イルカセラピー”という言葉を目にして、調べたらハワイでやっているというのを知りました。
両親に、「大学をやめて、イルカセラピーに携わりたい」と言ったんです。
でも両親は「大学を卒業して、その時にまだやりたかったらやればいい。」と。
そこで、じゃあ大学を卒業しないといけない、と思うようになりました。
――― なるほど。正直、ご両親の気持ちはよく分かります(笑)
安田 ですよね…(笑)でも卒業する前に、夏休みを使ってイルカに会いに行こうと思い立ちました。
ハワイでイルカと泳がせてくれるところを探していたら、雑誌でイルカと泳ぐことを日課にしているという「マサシさん」という方の小さなコラムを見つけたんです。
しつこくメールで連絡して、そのままの勢いでハワイまで会いに行きました。
――― すごい行動力ですね。
安田 それでマサシさんに案内していただいて念願のイルカと出会い、一緒に泳ぐことができたんです。
――― 夢への第一歩ですね。
安田 いや、それが…。
正直、期待していたほどではなかったんです。
それなりに感動はしたんですけど、期待値が高すぎたみたいで。
――― なんと。。
安田 ただ、マサシさんの人間性に惹かれ、マサシさんも私のことを面白いと思ってくれたようで、一ヶ月の間ハワイでいろんなところに連れて行ってもらいました。
ハワイ島の王様の末裔に会わせてくれたりもしました(笑)
――― それは貴重な経験ですね(笑)イルカへの想いはそこで終わってしまったんですか?
安田 はい。終わりました。終わったんですけど、ハワイにはまだいるのでまだ色んなところにお出かけはしていて。
あるときハワイ島の半分くらいを見渡せる所に行ったんですね。
グリーンや湖があってとても綺麗なところでした。
それをみた瞬間に、「映画をやろう」と直感的に決めたんです。
――― いきなりですね。
安田 ですね(笑) というのも、当時私は大学で映画ゼミにいて、高橋巖(たかはしいわお)先生という方から映画について教わっていたんです。
そんな中で、イルカへの想いがなくなり、ハワイというスピリチュアル的な空気がそうさせたのかわからないですが、「映画をやりたい」という想いが降ってきたんです。
――― ではある意味イルカのおかげで映画を始めることになったのですね。
安田 そうですね(笑)
↓大学生時代
■言葉にできないコンプレックスを、映画で表現できた
――― その映画ゼミでは、どんな作品を書いたのですか?
安田 高橋先生に「自分が本当に書きたいことを書きなさい」と言われていました。
私にはずっとコンプレックスがあって…LGBTということなんですけども。
――― セクシャル・マイノリティの。
安田 はい。ずっとそれが悩みで、怖くて打ち明けたくないけど、でももう「書きたいことを書きなさい」と言われてからそのことが頭から離れなくて。
それを書かないということはもう自分の中で無理で、そこに向き合うことにしました。
――― それは勇気がいる大きな決断でしたね。
安田 当時は、本当に勇気がいりました。
ただ作ったシナリオをゼミのみんなの前で発表した時に、「面白かった」と言ってもらえたんです。
恥ずかしかったけど、とても嬉しかった。
それを映画として作り終わった後に、やっと自分を出せた、よかった、と。
――― すごいことだと思います。
安田 口で表現できなかったことを映画で表現できて、それが良い意味で衝撃的で。
これからそういうものに取り組んでいこう、とその時に思いました。
まだまだ葛藤はありますが、少しずつ自分を出せるようになってきたのはその経験のおかげです。
――― 学生の時に映画を通じてLGBT当事者であるご自身を表現し、コンプレックスを乗り越えたというのはすごい経験ですね。
安田 そうですね。ぜひ同じような悩みを抱えている人にすすめたいです。
シナリオなどで自分を表現することは、アートセラピー的な側面があるんだと思います。
■業界に対する違和感
――― 大学卒業後はそのまま映画作家の道を選んだのですか?
安田 アルバイトをしながら、作品づくりは続けていました。
修行のつもりで映画現場やCM制作現場など、業界に出入りしましたがやはり馴染めませんでした。
――― それはどうしてですか。
安田 そうですね。現場では高圧的な態度の人や、長いものに巻かれるタイプの人、作品のことを考えてないような人が多くいました。
また、初対面の人が集まって制作することが多く、「仲間」ではないんです。
関係性ができてないので意見を言わない人も多いですし、「これでいいものが作れるのか?」と思っていました。
私が見てきたものはほんの一部かもしれませんが、この環境だとなにも自分の意見を発言できず、個性が出せない、潰れてしまうなと思ったんです。
――― なるほど。
安田 あるとき、たまたま新人シナリオライターとして脚本を書いてみるというドラマの仕事のチャンスをいただいたんですね。
なんとか全13話のシナリオを書ききったんですけども、依頼してくれた人と連絡が取れなくなり。
結局その話は流れてしまっていたという話を、他の人づてに聞いて知ったんです。
――― それはひどすぎる話ですね。
安田 それはもう経験を積んだということで割り切りましたが、そういうことが重なって自分で納得のいく形で映画をつくりたいと思うようになりました。
でも当然それだけで食べていくことはできませんから、ひたすらアルバイトをして、貯めたお金で映画をつくり、シアターを借りて上映し、またアルバイトに打ち込む、ということを繰り返しました。
――― それはハードですね。
安田 そうですね…家とバイト先を行き来するだけの生活をしていると、あまりに世界が狭くて、どんどん精神的に追い込まれ不眠症にもなりました。
ただ、大学を卒業した時からずっと「映画制作コミュニティのようなものがあったら、アルバイトをしながらでも個性を保ちながら制作しやすいのではないか」という思いがあったのです。
↓自主制作映画/2014年制作「西ノ島の盆」予告
◾️自然と人が一緒に暮らしてる場所
――― 映画制作のために東京でアルバイト生活をされていた安田さんが、どのようにして「湘南×映画制作コミュニティ」という方向に進み始めたのでしょうか。
安田 東京でのすごく狭い世界から抜け出したくて、一緒に良い作品をつくるコミュニティが欲しいと思うようになりました。
ただ映画業界において経験も実績も足りないなかで、すぐにコミュニティをつくる勇気がなく行動に移せませんでした。
――― 無理もないと思います。
安田 29歳頃までそんな状態が続いていたのですが、3年前に茅ヶ崎に引っ越してきて、チガラボ代表の清水さんに背中を押され、ようやく勇気が出てきました。
↓チガラボでのMalua活動の様子
――― チガラボにはそういう人を応援するコミュニティがありますよね。ちなみに茅ヶ崎に引っ越してきたのはどうしてですか?
安田 30歳までにはどうにかしないと、と思っていて、でもどうしたら良いかわからなくて。
あるとき急に「海がみたい」と思って湘南のゲストハウスに一週間滞在したんです。
――― 急に。
安田 映画の時もそうでしたが、いつも転機は急にくるんです(笑)
その時の湘南はちょうど雪が降っていて、富士山がすごく綺麗で、地元のみなさんが写真を撮りに外に出ていたんです。
その様子を見たとき、「この地域はすごいな、自然と人が一緒に暮らしてる」と思いました。
ここだったら本当に大切な物を忘れずにいられるかも知れないと思えたんです。
■湘南でのご縁が紡いだ「江ノ島シネマ」
――― チガラボでは、コミュニティづくりをどのように進めて行きましたか。
安田 まずチガラボがいまに至るまでの経緯を伺いました。
チガラボは、まず’「場所」ではなく中身の「コミュニティ」からつくっていったという話でしたので、じゃあまずは中身から、というところで「スタジオMalua」の立ち上げをし、同じタイミングで「江ノ島シネマ」を企画するにことにしました。
↓江ノ島シネマ予告
――― 江の島シネマの予告を拝見しましたが、ものすごく素敵ですね。
安田 ありがとうございます!
江ノ島シネマは、1話15分、8駅分でできている短編映画集です。
8人の監督さんが江ノ電の8駅を舞台にして映画をつくりました。
――― どうしてそのやり方を選ばれたのですか。
安田 以前に関西テレビの「大阪環状線」というドラマに作家として参加させていただき、その時の企画がすごく面白くて。
そこで原案の小林弘利さんに許可をもらい、その企画を踏襲したんです。
小林さんには「江ノ島シネマ」でもシナリオアドバイザーとして参加していただいています。
――― 8つの物語の中の、鎌倉駅編である「東京に眠る」は、安田さんが監督ですよね。
安田 はい。メインの役者さんのお二人をはじめ、協力してくださる方々がとても素晴らしくて、とても手ごたえを感じられる作品になりました。
ぜひ皆さんにもご覧いただきたいです。
↓撮影の様子
――― 江ノ島シネマの、今後の展開は考えていますか。
安田 もし好評だったら第二弾をやりたいと思っています。
今回、8名の監督さんで制作しましたが、そこに入れなかった方や、ありがたいことに次回の参加希望者もいらっしゃいますので。
――― 今回、制作資金がない中でつくっているそうですね。
安田 はい。今回は制作意欲が非常に高い方々にお集まりいただけて、お金がなくてもまずはやってみて、やった後になにか起こるだろうと感じてくださっています。
運営費を賄うために、いまクラウドファンディングのプロジェクトが進行中です。
――― 良いですね。クラウドファンディングはいつまでやっているんですか?
安田 6月いっぱいまでやっています。
もし少しでも応援してくださる方がいらっしゃいましたら、ぜひご支援いただけると励みになります!
――― それにしても、そのような熱意のある方々と繋れたのは財産ですね。
安田 そうですね。今後は「スタジオMalua」をしっかりコミュニティ化して、湘南にコミュニティスペースをつくりたいです。
コワーキングスペース的な要素であったり、作家さんが自分の作品をプレゼンするようなイベントを行なってプロデューサーさんと映画作家をつなぎ合わせるような場所をイメージしています。
◾️コミュニティ×映像の商店街活性化アイディア
――― 最後に、このエキウミは雄三通りの活性化を目指しているのですが、なにかアイディアをいただけますか。
安田 コミュニティ目線で言えば、雄三通りの方々が定期的に集まれる拠点をつくり、そこで一人5分などでアイディアを出しあう場をつくるのはどうでしょうか。
あとは、チガラボのように食べ物を切り口にして、例えば雄三通りのパン屋さんがパン持って来てイベントやり、それを動画にして発信したり。
――― なるほど。
安田 雄三通りってどんな人がいるのか、何をしてるんだというのを知れるように商店街の方が一人一人出てくる動画をまとめて、エキウミのロゴイラストなんかを絡めつつ「雄三通りオールスターズ」みたいなようにするのも面白そうですね。
――― 映画作家の安田さんらしいアイディアですね!インタビューは以上です。ありがとうございました。
(おしまい)
▼「江ノ島シネマ」クラウドファンディング(※)はこちら!ぜひご支援をお願いいたします。
▼インタビュー・編集 小野寺将人(Blog / Facebook / Twitter)
2015年に茅ヶ崎市に移住し、2017年に「エキウミ」を立ち上げる。東海岸商店会の公式サイトの運営や、アクセサリーブランドm'no【エムノ】のウェブマーケティング、記事の寄稿も行う(SUUMOタウン「まだ茅ヶ崎に行ったことのないあなたへ」)。
青森県生まれ。2017年に茅ヶ崎に引っ越し在住。フリーランスでマーケティングを中心にスタートアップや新規サービス、個人の支援を行う。趣味で湘南のCHILLをお届けするWebメディアCHILL AND LOCALを運営。
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