【由紀精密の伊達令さん】なぜネジの町工場が航空宇宙の領域に舵を切れたのか。
（前回の記事はこちら→茅ヶ崎の下町ロケット。皇太子殿下がご視察された町工場のものづくり。）
■はじまりは小さなネジ
――― 由紀精密さんの沿革について簡単に教えていただけますか。
伊達 はい。まず創業年ですが、由紀精密は1950年に生まれました。
↓創業当時の由紀精密
伊達 最初は小さなネジをつくるところからはじまりました。
その後はコネクター部品、たとえば公衆電話にテレホンカードを送り込む部分のシャフトなどをつくっていました。
――― 精密なものづくりが必要な分野ということですね。
伊達 はい。公衆電話の台数が増えるにつれて由紀精密の売上も伸びましたが、バブルがはじけて一気に状況は厳しくなりました。
そこで別の領域に行こうということで、電気電子部品に参入しました。
――― ITの領域に打って出たのですね。
伊達 ただこちらも同じくITバブルがはじけて厳しくなってしまって。
やむを得ず次の領域を探すことになりました。
■品質の由紀精密
――― 二度のバブル崩壊に負けず、時代と共に変化をしてきたのですね。
伊達 はい。生き残るためには時代に順応する必要があったのです。
ITバブルがはじけたとき、改めて自社の強みを知るためにお客さまにアンケートをとったんですね。
そうしたら他社に比べて、「高品質のものが継続して提供できている」「不良品が出にくい」ということがわかりました。
――― 由紀精密は高品質がウリだと。
伊達 はい。この「不良品が出にくい」ということを活かせる領域を探した結果、航空宇宙業界に乗り出したんです。
人の命がかかわるので、特に精度が必要とされる部品が必要になりますから。
――― それにしても宇宙というのは夢がありますね。由紀精密さんが関わったものはいまも宇宙にあるのでしょうか。
伊達 はい。現在宇宙にあるのは全6機です。
たとえば「ARTSAT2 DESPATCH」というプロジェクトでは、多摩美術大学や東京大学とコラボして開発した人工衛星で2014年に打ち上げました。
↓宇宙に飛び立った宇宙機
――― らせん状ですね。
伊達 はい。「宇宙はスパイラルだ」という多摩美術大学の久保田先生のお考えを表現した形状です。
――― なるほど…。
伊達 こちらは有名な「はやぶさ2」の相乗りの衛星として実際に打ち上げられたんです。
他にもISS（国際宇宙ステーション）に搭載されている機器や、人工衛星の推進機器のテストモデルなども製造しています。
ここに細い穴が開いてるんですけど、こういう金属加工は非常に難しいので、そういうところで由紀精密の技術力が活きています。
↓人工衛星の推進機器の細い穴について説明する伊達さん
――― 金属に細い穴をあける技術ですか。
伊達 粘土などを想像していただくとわかりやすいのですが、形状を歪ませずに穴をあけるというのはなかなか難しいですよね。
それを耐熱合金、たとえばチタンなどで実現させるとなると非常に難しいんですね。
こういう穴は業界の人が見ると「おぉ…すごい…」っていうため息が出るんですが、一般の方が見ると「へー」で終わっちゃうマニアックな世界ですね。
――― たしかにちょっとマニアックですね（笑）
伊達 これまで町工場というのはあまり広報に力を割かないところが多く、せっかくの技術が知られないせいで続かないということがあるんですね。
だからこそ私は由紀精密の広報として「伝わりづらいものをどう伝えるか」ということを常に考えています。
――― 由紀精密さんが高度な技術力をお持ちだということがよくわかりました。次回はなぜ伊達さんが由紀精密に入り、広報としてご活躍をされているかについて伺いたいと思います。
（次回に続く）
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【茅ヶ崎のものづくり】由紀精密の伊達令さん
・第1話 茅ヶ崎の下町ロケット。皇太子殿下がご視察された町工場のものづくり。
・第2話 なぜネジの町工場が航空宇宙の領域に舵を切れたのか。
・第3話 ものづくりも、広報も強い町工場。
▼インタビュー・編集 小野寺将人（Blog / Facebook / Twitter）
2015年、茅ヶ崎市に移住。「エキウミ」の管理人。住宅・不動産サイト運営会社、お出かけ情報サイト運営会社にて営業・企画職を経た後、現在は総合ポータルサイトにて企画職に従事。東海岸商店会の公式サイトの運営や、ハンドメイドアクセサリーブランドm'no【エムノ】のウェブマーケティングも行う。
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