【元香川小学校校長の國分一哉さん #1】通知表をやめた校長先生。“「B」評価の子どもは「自分って凡人じゃん」と思っちゃう。”

茅ヶ崎の公立小学校で、通知表をなくした校長先生がいるのをご存知でしょうか。今年の3月に出版され、テレビや新聞でも取り上げられた書籍「通知表をやめた。 茅ヶ崎市立香川小学校の1000日」の取り組みについて、元香川小学校校長の國分一哉氏から直接お話を伺いました。特にお子さんがいる方や、教育に興味がある方は必読の内容となっています、ぜひ最後までお読みください。(全2話)


■「自分って凡人じゃん」


小野寺(インタビュアー):私はこれまで通知表はあるのが当たり前だと思っていましたが、本を読んで考え方が変わりました。思っていたより、通知表にはデメリットが多いのですね。


國分氏:そうですね、通知表は子どものためになっていないことの方が多いと思います。

通知表のデメリットとして、まず一つは子どもの自己肯定感(ありのままの自分を肯定する感覚)を下げてしまうことが挙げられます。


小野寺:それは成績が良くない子どもたちにとって、でしょうか。


國分氏:もちろんそれもそうですが、中間の「B」評価の子たちにとっても良くないんです。


小野寺:「B」は恐らく、大多数の子たちですよね。


國分氏:そうなんです。今の通知表ってほとんどの子が「B」評価になるんですよ。

理解していて自信を持って良いレベルなのに、通知表に「B」って書かれると子どもは「自分って凡人じゃん」と思っちゃうじゃないですか。


小野寺:その通知表を見た保護者も、同じように感じてしまうかも知れません。


國分氏:先生から子どもに「君はこういうところが良くてね」といくら言っても、通知表の「B」を見て自己肯定感が下がってしまいます。

先生が日頃から児童それぞれの良いところを伸ばそうと声がけをしていても、そこでリセットされちゃうんです。


小野寺:本で紹介されていた現場の先生のコメントにも、通知表は「インパクトが強すぎる」と書かれていました。


國分氏:通知表は先生と子どもたちの関係性も変えてしまうぐらい力があります。

せっかく積み上げてきた信頼関係を崩すという点では、通知表はすべての子どもにとってマイナスになり得る存在だと思います。


■「先生このプリントは通知表に関係ありますか」


小野寺:成績が良い子たちにとっては、通知表はメリットしかないと思っていました。


國分氏:実はそうでもないんです。例えば「A」評価を取るための勉強しかしなくなり、本質的な学びを止めちゃうこともあります。


小野寺:賢い子ほど、通知表に関係のない勉強をしなくなるのは分かる気がします。


國分氏:特にかつての香川小学校のような管理が強めの学校だと、子どもは人の目を気にしすぎるので、通知表の意味合いが大きくなります。


小野寺:決まりごとが多い学校ほど注意が必要だと。


國分氏:ええ。私がたまに代理で授業に出ると、「このプリントは通知表に関係ありますか」ってよく聞かれるので、「関係ないならどうするの?」って聞くと「それならやりたくない」って(笑)


小野寺:正直すぎる(笑)


國分氏:そこで「通知表のために勉強をするのはどうなのなー」って話をするんですけど、まあそういう子が多かったんですね。

なかには、「校長先生、私の成績良く付けるように、担任に言ってよ。親に怒られないために」と言ってくる児童もいて(笑)

小野寺:通知表の影響力の強さがよくわかるエピソードですね。


國分氏:小学校の評価のつけ方って時代によって違うんです。実際「A」が付きやすい時代もあったし、今みたいに「B」ばっかりになっちゃう時代もある。

小学校の通知表ってその程度のものなのに、子どもも保護者も影響を受け過ぎちゃうんです。


小野寺:通知表の影響力を甘く見ていました。


國分氏:通知表が持つ力は他にもあって、間違えることを極端に恐れるようになったり、成績によって序列ができて人格形成に悪影響があったりもします。


小野寺:それも見逃せない問題ですね。


國分氏:もちろん通知表にメリットがないとは言いませんし、「通知表をなくさないで」という保護者の声もありましたが、あくまで小学校教育においてはデメリットの方が大きいと思います。


■子どもたちにとって意味のあることに時間を使いたい


小野寺:本には、通知表をなくした後の子どもたちの変化についても触れられていました。狙いの一つだった「自己肯定感を高める」は先生たちの実感としてあったようですね。


國分氏:そうですね。通知表をなくしてから入学した子どもたちは、自分の意見をよく言う子が多かったり、自分のプリントを人に見せるのを嫌がらなかったりするようです。


小野寺:良い傾向ですね。


國分氏:ただ、まだ3年しか経っていないのでそこまで大きな変化はないんですよね(笑)変化はたしかにありますが、無理に強調し過ぎても良くないと思っています。

小野寺:通知表をなくして、マイナスの影響はありますか。


國分氏:今のところなさそうです。ですから、かつて先生方が通知表のために使ってきた大きな労力を、今は子どもたちにとって意味のあることに使えているわけですね。それは一つの成果ではないでしょうか。


小野寺:ここまで通知表をなくす理由と、なくした結果について伺ってきました。後半は、通知表をなくすまでの過程や、先生たちの変化について伺いたいと思います。


(次回へ続く→これからの時代は「自分の頭で考える」のが大切になる。ところで先生はそれができているか?


▼インタビュー・編集 小野寺将人(Facebook / Twitter

2015年に茅ヶ崎に移住し、2017年に「エキウミ」を立ち上げる。地域密着店のネット活用をお手伝いする株式会社KYOEI(キョウエイ)の代表。

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